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書体への誘い 23 新龍<しんりゅう>


別カット

新龍島黄楊根杢盛り上げ駒
酔棋作(第410作)
高橋 大氏所蔵

奥野作が源流だから双玉仕立て

彫りの工程が終わった状態。 彫り埋めの工程が終わった状態。 盛り上げが完成!

 2016年10月に開催した「酔棋制作駒『第4回個展』―たかが駒、されど駒―」(▼別項参照)のときに、依頼された駒の一つが、今回掲載したこの「新龍(第410作)」である。
  これまでにこの「新龍」という書体は、2013年に「新龍薩摩黄楊孔雀杢盛り上げ駒(第344作)」(▼別項参照)を皮切りに、同年に「新龍島黄楊糸柾書き駒(第348作)」(▼別項参照)、「新龍中国黄楊虎杢盛り上げ駒(第350作)」(▼別項参照)と引き続き制作した。いずれも「作品ライブラリー」に掲載してあるので、そちらもご覧いただきたい。
 上記の3組以来、久しぶりに「新龍」を新たに作ることになったので、この「書体への誘い」であらためてこの書体を取り上げ紹介することにしたものだ。下記の「『新龍』の由来」を読んでいただければおわかりのように、この書体は「奥野作」由来であるから、当然なことに「双玉」仕立てなのである。
 上写真をご覧いただいておわかりのように、駒字そのものがしっかりしているので、今回は「根杢」だが先の「孔雀杢」「虎杢」といった派手めな駒木地でも、書体は負けていない。
  他の「奥野作」がもとの「書体への誘い10・宗歩好」(▼別項参照)でもふれているが、その「宗歩好」ももともとは「安清」が源流と思われる。この「新龍」も同じく「安清」に似通ったところが見られるので、同じ源流ともいえるかもしれない。

「玉歩」の盛り上げの感じ。

■「新龍」の由来


 「しんりゅう」という音が同じの駒の書体としては、次の「真龍」「信龍」「新龍」の3種類が知られている。
 まず「真龍」は、 江戸期に大橋本家(宗桂・宗金)で「真龍造」という銘で、駒を作っていたと思われる「真龍」が由来。そのあたりのことが、「駒関連資料館・23.書体不詳(董齊?)島黄楊板目彫り埋め駒・真龍造」(▼別項参照)にも掲載してある。 次に「信龍」は、拙著『将棋駒の世界』(111ページ)に「信龍薩摩黄楊板目彫り駒・豊島作」掲載している。作者の豊島については、「名工の轍・豊島龍山」(▼別項参照)をご覧いただきたい。
  残りの「新龍」は上に掲載した資料がもととなって、私が新たに字母紙を作り『酔棋字母帳』に加えた書体だ。そのあたりの詳しいことは、先の「新龍薩摩黄楊孔雀杢盛り上げ駒(第344作)」に詳細を書いてあるので、あらためてこちらにも下記に一部抜粋し転載しておく。上の資料(「新龍島黄楊虎杢盛り上げ駒・奥野作」の一部表裏カラーコピー・「駒の由来便せん」)も参考にお読みいただきたい。

 奥野作の実物の「新龍」は、かつて一度だけ拝見したことがある。1999年に、故・升田幸三実力制第四代名人のお宅に、『NHK将棋講座』の取材でおうかがいしたときのことである。升田元名人の愛用駒「淇洲(影水作)」を、元名人の奥様(静尾夫人)に取材したのであるが、そのときは残された駒としては先の「淇洲」しか見つからなかった。後日、原稿の確認のため再度升田家にうかがうと、数組の影水作の盛り上げ駒などをはじめ全部で10組以上の駒を見せられた。いずれも主がいなくなった駒たちは、磨かれるわけもなく放置されていたので、私が預かってきれいに磨きなおして、奥様にお戻しした。
 その駒たちの中に、虎杢のすごい駒木地の「新龍」(奥野作)があったのである。その駒は、由来が書かれた便せん(上右資料)も残されいたので、時代背景や駒銘からも奥野作の駒であることは間違いなかった。
 その便せんの内容は、

 「贈呈 将棋駒 萩原 淳(捺印)
 升田幸三殿
 この駒は昭和の初期、当時関根名人をはじめ土居、金、木見、大崎、花田、木村、金子各八段等が読売新聞棋戦の対局に使用されたものです
 昭和三十九年六月」

 というもので、将棋の歴史上の人物(便せんに書かれた棋士たち)が対局で使っていた駒なのである。萩原淳九段が升田幸三九段(当時)に、この「新龍」を贈呈した内容の便せんだ。

 ただ不思議なことに、駒木地の虎杢はかなり歴史を感じさせる状態なのだが、漆はまったくすり減っておらず、状態がすごくいいのである。
 奥様にうかがったところによると、将棋の天才・升田元名人と駒の天才・宮松影水(▼別項参照)はそれなりに交流があったという。つまり、升田元名人が毎年のように影水に駒を依頼していたのである。「天才は天才を知る(▼別項参照)」という、関係だったのかもしれない。そこで、これはあくまでも推測の域を出ないが、奥野作の「新龍」の漆がすり減ったため、影水が盛り上げ直したものではないかと思われるのである。というのは、先に述べたように「字のハネやハイリなどの鋭さ」は、奥野ではなくまさに影水の感覚だろう。この推測は、私だけでなく「将棋駒研究会」の会長・北田義之氏も同様の見解であった。

 以上が抜粋したものだが、この「新龍」という書体ともととなっているカラーコピーの駒には、かなりのドラマ的背景が含まれているようだ。

 

 

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