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酔棋流駒の作り方6―盛り上げ作業・盛り上げ駒の完成

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4彫り埋め作業5面取り・仕上げ磨き・彫り埋め駒の完成

▼酔棋流書き駒1「書き駒教室」用の書き駒

盛り上げ作業

 前項の「盛り上げ用目止め」の作業が終わった駒に、いよいよ漆を盛り上げる作業に入る。ご覧いただいてきたように手間のかかるところや、漆の盛り上がった見栄えなどから、数ある製法の中で「将棋駒の華」ともいわれるのが「盛り上げ駒」だ。
 ここでも使用している道具などは、あくまでも自分流のもの。この作業が一通り終わって、駒をムロに入れてしっかりと漆を乾燥させてから、最後の仕上げ磨きをして完成となる。なお、この完成した「新龍」は、「作品ライブラリー・新龍薩摩黄楊孔雀杢盛り上げ駒(第344作)」(▼別項参照)に掲載してあるので、合わせてそちらもご覧いただこう。  

別カット
新龍薩摩黄楊孔雀杢盛り上げ駒・酔棋作(第344作)/酔棋所蔵

 完成した「新龍」
 駒の写真の撮り方は、見栄えよくまた飽きのこないようにいろいろと工夫しているが、どうしても限られてくる。その中で、駒袋を使ったこの写真のような撮り方は、私自身は気に入っているがいかがだろうか。

 


1.盛り上げに使う道具

 盛り上げの専用台(駒を挟むところが回転できる)、見本の「新龍」字母紙、筆(形状記憶筆インターローン1026)、ペン皿、片脳油(使った筆の漆を落とす)、彫り埋めの「新龍」、呂色漆(日本産)。

2.漆を漉す

  美濃紙などを3枚くらい重ね、漆をそこに少量垂らして、写真のようにスプーンに絞って入れる。その後練ってから、1時間くらい放置して漆を落ち着かせる。スプーン状のものは、コヒーなどを混ぜるものを使用。

3.筆で漆を盛り上げる

  彫り埋めの「歩兵」を盛り上げ台にしっかりと固定して、見本の字母紙をそばに置き、筆でじっくりと漆を盛り上げていく。書きやすいように、回転させ向きを変えたりする。1枚で20分くらいかかることもある。

4.盛り上げが終わった歩

 盛り上げが終わるとこんな感じ。ここでちょっとでもふれると、これまでの苦労が水の泡となる。盛り上げる高さのコツは、書体にもよるが何度もやって慣れるのが一番だ。

5. 乾燥台に並べる

  盛り上げた面を下にして、漆がどこにもつかないように注意しながら乾燥台に並べる。ちなみに私は板で作った専用の乾燥台を使っているが、ラップ類の芯などを加工してもよい。

6.駒銘を盛り上げる

  駒銘専用の治具(写真参照)を、盛り上げ台に挟んで使う。ちなみに駒銘を彫るのにも、専用の治具として小型の万力みたいなものを使用している。

7. 駒銘の乾燥

  駒銘の乾燥には、プラスチックの小さな箱を加工して使っている。先の乾燥台に並べた駒とともにムロに入れてじっくりと乾かす。1日自然乾燥(水分を与えない)し、2日目に漆マットに水分を含ませてムロに入れるている。

8.「新龍」の「玉と歩」

  盛り上げが完成した「新龍薩摩黄楊孔雀杢盛り上げ駒」の「玉と歩」。漆の盛り上げ具合が、わかるだろうか。完成してから、プラスチッククロスで磨き、最後に椿油を仕上げに使っている。


盛り上げ駒の完成

 これまでのすべての工程を経て、やっと盛り上げ駒が完成する。このページに限らず数々の写真を使って解説してきたが、実際にはまだまだ書ききれないコツみたなものががいっぱいある。
 簡単ではあるが、それらをいくつか以下に箇条書きしておく。

  @字母紙(薄紙)を貼るノリは、シワになりにくいスティックタイプのものを私は使っている。やり方としては、駒木地に万遍なく塗って字母紙を適切な位置にずらす。
 A使うサンドペーパーなどは、粗いものから細かいものという順番を絶対に崩さない。その順としては私が使っているのは、100番、400番、800番、1200番で、ラッピングフィルム4000番、プラスチッククロスとなる。
 B駒作りに使う道具や治具は、市販されているものはあまりないので、「駒作りの会」などで頒布されたものや、自作のものを使う。その他としては、「100円ショップ」などで売られているものを工夫して使う。
 C「漆を制するものは駒を制す」ともいわれるぐらい、漆は奥が深いものである。余分な駒木地に使用する漆を塗って、その乾き具合(温度や湿度)たえず試すこと。季節やその環境によって漆の乾き具合は変化するし、同じチューブの漆を購入し使っても同じに仕上がるとはかぎらないのである。とにかく漆の難しさは、なかなか手に負えないことを心得ておきたい。
 D他の方の駒作りのやり方を参考にするのはいいが、必ずしもそれが自分に合っているとはかぎらないので、暗中模索しながらでも自分のやり方を見つけることが最重要なのかもしれない。

 これで「酔棋流の駒の作り方」は、一通りおわかりいただけたと思う。駒作りそのものだけでなく駒に興味のある方や、他の工芸品などにも興味のある方の参考に少しでもなれば、掲載している私としてありがたいことである。

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