引き続き「新龍」という書体の駒で、彫り埋め作業をやっているところを解説する。基本はサビ漆(との粉+水+生漆)を作って、目止めの施された駒を一つひとつていねいに埋めていく作業である。ただし使うサビ漆は、駒師によって入れる成分が多少異なっているものでもあるし、ある程度秘密にもされていて正確なところははっきりしていない。
私(酔棋)も以前は、先の基本どおりのサビ漆(との粉+水+生漆)で彫り埋め作業をやっていたが、3年前くらいからそれを変えている。おなじみの「将棋駒研究会」会長・北田義之氏に秘伝を聞いて、それを取り入れるようになったからである。その秘伝を公開していいかどうか少し悩むところだが、以前私のフイェスブックなどで発表したこともあるので、ここにも書き残しておくことにした。なお、北田氏には了解を得てある。
その秘伝のサビ漆の成分は、下記の写真の中で解説してあるのでそれをご覧いただこう。
彫り埋め光景 文机の上で、地味に作業する。もちろん他のすべての作業もするので、この机は私にとって駒作りのためのミクロコスモス(小宇宙)といってもよい。 |
1.彫り埋めに使う道具 目止めを施した駒、作業をする皿、乾燥台(駒を並べておく)、漆/瀬〆漆(生漆)・呂色漆、香炉灰、ペインティングナイフ、ウイスキー、サンドペーパーなど。通常使うとの粉の代わりが香炉灰。 |
2.ウイスキーが水代わり 通常のサビ漆は、との粉を水でよく練って、生漆を混ぜて作る。北田氏から教わった秘伝の方法とは、水の代わりにウイスキーを使うこと。ちなみにウイスキーは、ブランドにはまったくこだわらない(笑い)。 |
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3.香炉灰をよく練る との粉の代わりに、粒子が細かい香炉灰を使用。これも、北田氏に教わって取り入れるようになった。ウイスキーを適量入れ、よく練る。後で漆を混ぜるから、このときはやや硬めにしておく。 |
4.漆を加える 練った香炉灰に、生漆を入れ、次いで呂色漆を同量くらい入れる。漆をブレンドするとサビ漆が黒く上がる。このとき灰と漆の割合は、6対4くらいが目安。 |
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5. 合わせてよく練る ダマができないように、少し時間をかけてよく練る。仕上がりは、耳たぶくらいの硬さといわれている。水よりもウイスキーだと、やや早く乾く感じがする。乾燥が遅いと、漆がにじみやすい。 |
6.サビ漆を駒に入れる よく練ったサビ漆を、ペインティングナイフで目止めの施された駒一枚一枚ていねいに入れる。駒のサイドや天(頭のてっぺん)に漆がつかないように、注意する。 |
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7. 乾燥台に駒を並べる 乾燥台にサビ漆を入れた駒を並べる。通常は盛り上げのときに使う乾燥台だが、彫り埋めの作業のときにもよく使っている。板が丸くくくられているので、通気性がいいのだ。 |
8.ムロに入れ乾燥 乾燥台に並べた駒は、専用のムロに入れて一日放置する。一度入れたサビ漆は、完全に乾くと少しへこむ。だからこの作業は、2度行う。さらに乾かしてから、上に生漆を塗るやり方もある。 |
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9. サビ漆を研ぎ出す 使い古した100番のサンドペーパーで、サビ漆を研ぎ出す。駒をしっかり持ち、くるくる回す感じでやる。前後に研ぎ出すと、片減りしてひどいことになるから注意! |
10. 途中の状態 サビ漆を外すと、駒字が浮き出てくる感じがする。このとき、目止めがしっかりされていなかったり、サビ漆が緩すぎたりすると、漆のにじみが生じたりする。 |
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11. 研ぎ出した状態 研ぎ出してみて、漆のにじみも出ていないと、まずは一安心。使い古した100番での研ぎ出しでは、駒の表面はかなり粗いままだ。この作業が40枚ある。 |
12. 彫り埋めの基礎 研ぎ出した彫り埋め駒。さらに400番のサンドペーパーで、すべての面(表裏だけでなく側面や尻なども)をきれいにする。この状態でも小さな穴が開いているので、その後駒字に漆を入れて(簡単な盛り上げ)穴を埋める。 |