赤丸の箇所が素朴である。 | 赤丸の箇所が華美な処理。 |
この書体は、特別に依頼されて作ったものである。
別項「名工への轍・豊島龍山」で紹介している「水無瀬大納言兼俊卿筆跡盛り上げ駒」をもとに、新たに字母紙を起こし彫り駒として作ったのである。
元の駒字がそろっていなかったから、同じ種類の駒字のいいところを選び出し、ひとつの字母紙にした。その作業はなかなか面倒でかなり苦労したが、完成してみるとそれなりにまとまったようである。
ふだん私の作る「水無瀬」は、おなじみの「作品ライブラリー・水無瀬(第150作)」をはじめ、影水作をもとにしている。上写真の「玉将・歩兵」は、左が「水無瀬大納言」で右がふだん作っている「水無瀬」で、同じく「作品ライブラリー・水無瀬(第234作)」に掲載している。
これらの2つを比べてみると、全体から受けるイメージはもちろんのこと、細部の処理(赤丸)などもかなり異なっている。時代的または作者的背景の違いだろうが、「大納言」は素朴で「水無瀬」は派手な印象だ。
今回、実際に作ってみてわかったことだが、とくに彫り駒などではあまり華美な処理よりも、素朴な味わいが生きてくることがあると感じた。場合によって同じ書体でも、彫り駒と盛り上げ駒で書体を使い分ける作り方も、ひとつの方法なのかもしれない。
また、駒銘をご覧いただきおわかりだと思うが、依頼者のお好みで「酔棋作」は旧バージョンでお作りした。最近私は、彫り駒でも駒銘は盛り上げで作るようにしている。