英朋書島黄楊柾目書き駒
酔棋作(第264作)
匿名
篆書の個性的な「龍馬」。 |
駒の書体の表字と裏字には、いろいろな組み合わせがある。もっとも一般的なのは、表が楷書か行書で、裏が行書か草書の組み合わせだ。原則は表字より裏字のほうが、より草書に近くなっていることである。
今回取り上げた「英朋」は、表が隷書(れいしょ)で裏が篆書(てんしょ)という異色の組み合わせとなっている。表の隷書は他の書体でも見かける感じだが、裏の篆書はかなり独特で個性的ではないだろうか。ことに左に掲載した「龍馬」の字母をご覧いただければ、下の「馬」の字がまさに草原を駆けめぐる生き生きとした動物の馬を喚起さえしてくる。
上記の「英朋」は書き駒だが、別項の「作品ライブラリー・英朋(第208作)」は盛り上げ駒であるので、その2つを見比べていただきたい。製法はそれぞれ違っていても、実際の指し心地などはそれほど変わるものではない。
鰭崎英朋が描いた美人画(弥生美術館発行の鰭崎英朋のパンフより)。 |
書体としては、「英朋」(えいほう)と「英明」(えいめい)の2種が出回っているようだが、下記の事実からして「英朋」が正しい。
明治・大正期の美人画などを得意 とした挿絵画家・鰭崎英朋(ひれざきえいほう)がこの書体の由来と思われる。ちなみに、右に掲載したものはその英朋自身が描いた挿絵(美人画)だ。
絵だけでなく書もしたためたと推測できるが、駒銘を書いたという確証はない。
これまでに紹介してきた他の書体と同様に、やはり「豊島字母帳」(近代将棋駒の祖・豊島龍山が残した)にこの書体もある。下記の字母がそれで、少し読みにくいと思われるが、からくも「英朋」と読める。
つまり同時代の駒師・龍山が、鰭崎英朋の書をもとに駒銘にしたものと考えたほうが、妥当なところなのかもしれない。
豊島龍山の残した「英朋」の字母帳。 |