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酔棋流駒の作り方3―彫りの工程・彫り駒完成

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1駒作りの環境と道具2駒作りのための字母紙//4彫り埋め作業
5面取り・仕上げ磨き・彫り埋め駒の完成6盛り上げ作業・盛り上げ駒の完成

▼酔棋流書き駒1「書き駒教室」用の書き駒

彫りの工程

 ここから駒作りの実践編として、「彫りの工程」の写真を追いながら解説していく。実際の駒の作り方は、それぞれの駒師によって細かい部分はかなり異なっているものだ。だから、これが必ずしも正しいやり方とは限らず、あくまでも一例の「酔棋流」と考えていただきたい。
  詳細は各写真に解説してあるので、そちらを読んでいただこう。最初に述べたように、「新龍薩摩黄楊孔雀杢盛り上げ駒・酔棋作(第344作)」という駒が完成するまでを、各工程ごとに順次紹介していく。
 私(酔棋)は、駒木地の整形(大きさや厚さを整える)はすることはあるが、駒木地そのものはまったく作らないので、木地師の方から購入することが多い。ただし、駒木地を持ち込みで依頼する方も、たまにいらっしゃる。どちらにしてもそれらの駒木地は、400番のサンドペーパーですべてきれいに一度整形し直すのである。ここで紹介する駒木地もその段階からであるから、整形の工程は省略してあることをお断りしておく。
 駒木地に関しては、「酔棋制作駒・駒木地リスト」(▼別項参照)のほうをご覧いただきたい。ここでは、「新龍」を作った「薩摩黄楊孔雀杢」のみを紹介している。

彫りの工程が終わった「新龍」
このように駒をガチャと重ねて撮るのも、なかなか迫力が出る。素彫りとはいえ、駒木地の具合はよくわかると思う。

1.「玉将と歩」の駒木地

  薩摩黄楊孔雀杢の「玉将と歩兵」。ご覧いただいておわかりのように、駒木地が孔雀の羽のように広がって見えるところから「孔雀杢」という。ちなみに逆の木取り(上から模様が流れる)は、「稲妻杢」といわれている。

2.作る駒木地(薩摩黄楊孔雀杢)

  木地師から購入した駒木地をサンドペーパー(400番)ですべての面を研磨する(整形の工程)。要するに、各駒木地ごとに、大きさや厚さなどをそろえる。枚数が多いので、かなり面倒な作業でもある。

3.字母紙を切る

  タイプ用紙(薄紙)にコピーした字母紙「新龍」をハサミで切り、整形した駒木地に位置を確認しつつ貼る。ずれてしまうと、仕上がりも同じく字のずれた駒になるので、要注意だ!

4.「新龍」字母紙貼り

  字母紙を貼っただけなのだが、これで将棋を指すこともできる(笑い)。まあそういうわけにもいかないが、これからいよいよ駒を彫る段階に入る。ここまでは、準備の工程といえるだろう。

5. 彫り台に駒を固定

  字母紙を貼った駒(歩兵)を、彫り台にクサビで留める。細かい彫りにも対応できるようにヘッドルーペを使用する。若いころはこんなものにお世話になることはなかったが、今ではすかっり必需品になってしまった。

6.向きが自由に

  彫り台はクルクル回るので、どちらからの向きでも自由に彫ることができる。ちなみに下に置いてあるものは、ゴム製のちょっと重くて丸い穴が開いている。そこに彫り台の下の金棒を差し込んで使う。

7. 字母紙をはがす

  これはあくまでも私のやり方だが、彫った駒は字母紙をサンドペーパーではがし取る。その後、彫り跡をきれにするために、中の木クズをさらう二度彫りをする。通常は紙を取ると、彫り埋めの工程で木地に漆がにじむことがあるからだ。

8. 「新龍」彫りの完成

  ひととおりの駒字を並べて撮ったもの。この形を「扇三段」(扇状で三段になっているところから)と名づけ、駒を撮るときによく使っている。ちなみに上の大きな写真の撮り方は、「ガチャ」と重ねるところから、そのまま「ガチャ」と名づけた。

9. 目止めに使う道具

 目止めに使う シェラックスニスの他に、塗るための絵の具筆と小さなパレット、彫った駒「新龍」。塗ったあとに駒を並べておくケース。シェラックニスは、薄すぎると漆がにじみやすく、厚すぎるとはがれやすいので、あんばいが必要である。

10. 一枚ずつ目止め

  なるべくサイドや天(駒のてっぺん)に目止めがつかないように注意しながら、一枚ずつていねいに目止めをする。原則として完全に乾いてから(1日おいてから)、2回目の目止めを施す。

11. 目止めをアップ

  目止めを塗っているところをアップすると、こんな感じ(「新龍」の歩兵)。濃くなりすぎたシェラックスニスは、アルコールを加えて濃度を調節する。使った筆や手についたシェラックニスは、アルコールで洗浄したりていねいにふき取る。

12. 目止めが完成

  玉将などの駒尻(駒銘が入っている)も、もちろん目止めする。二回目の目止めが終わって乾かしてから、ハケで呂色漆を入れれば、彫り駒となる。サビ漆(次ページ解説)を入れれば、彫り埋めになる。


彫り駒の完成

 上記の「12.目止めが完成」から、ハケで呂色漆(朱合漆を使うことも)を入れる作業を2回し、仕上げ磨きをすれば彫り駒となる。仕上げの研磨については別ページに書いてあるので、それをご覧いただきたい。彫り駒の漆入れでもっとも注意しなけらばならないことは、彫り跡に漆がたまってしまうことだ。彫り駒では彫り跡こそが命だから、それがくっきりと残るようにするのが基本である。ちなみに「新龍」も、「12.目止めが完成」で彫り駒の作業すれば、彫り駒となるのはいうまでもないことだろう。
 上の「新龍」は盛り上げになるのだから、彫り駒の完成はない。そこでサンプルとして「作品ライブラリー」に掲載している「寉園書薩摩黄楊斑入り柾彫り駒・酔棋作(第288作)」(▼別項参照)下に掲げておく。
 たしかに販売価格などは、「彫り駒→彫り埋め駒→盛り上げ駒」とだんだんと高くなっているのは事実だが、駒の魅力については必ずしもそうとはいえない。つまり、盛り上げの漆のふわ〜っとした感じを好む一方で、彫り駒の彫りを堪能する駒マニアもいる。また、指し将棋に盛り上げは少し使いにくいと感じ、彫り埋め駒が一番という人さえもいる。要するに駒好きは、まさに千差万別なのである。それぞれの駒の魅力を余すところなく引き出して、日常の将棋(駒)ライフを充実させることではないだろうか。 「彫り駒・彫り埋め駒・盛り上げ駒」は、段階を経る「→」ではなく「・」並列が、ほんとうの駒の魅力なのかもしれない。もちろん、「書き駒」についても同じことだろう。

「寉園」の「玉将
斜めからの写真だと、彫り跡や漆の具合もわかっていただけることだろう。写真でも少しわかる面取りについては、別ページに解説してある。

素彫りの「玉将・王将」

 駒作りにおいて彫りは基本だが、それなりに難しいものである。彫ったときちょうどよい太さと思ったものが、完成すると意外と細くなってしまった、という失敗よくあるのだ。

完成した「玉将・王将」

 当然なことに、余り駒を別とすれば駒は全部で40枚。だから、どの工程も同じことを40回繰り返すことになる。ときには、それも修行の一つかなと思うことさえたまにある。

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