右上の直す前の駒銘とともに修復前「水無瀬」。 | 修復後の「水無瀬」。 |
「名工の轍・宮松影水」(▼別項参照)で掲載している、今は亡き名工・影水作の「水無瀬」だ。現在でも駒マニアの間では、影水作の駒は人気を博している。その駒を、私(酔棋)が依頼されて修復したものである。
もともとは依頼者がネットオークションで落札した駒で、それを実際に使っていたそうだ。ところが「盛り上げ駒」なのに、裏はすっかり盛り上げがすり減り、ところどころの駒は彫り埋めさえも飛んでしまっている状態(上左写真参照)であった。そこで写真を添付して「何とか直してほしい」というのが、最初のメールでの問い合わせであった。信頼できる昔からの知り合いならともかく、初めての方なので「お受けするわけにはいかない」といったん断ったのである。
後日、「直す直さないは別として、持参するので見てほしい」とまた連絡が来た。わざわざ新幹線に乗って上京するというので、実際に拝見することになった。そのボロボロになった影水作「水無瀬」を目の前にすると、使うわけにもいかなくなったその駒がとてもかわいそうになった。
先の「名工の轍・宮松影水」の最後のほうに書いていることを、ここにも下記に掲載しておく。
「私(酔棋)自身が、じかに奥さんの登美さん(号・美水)からうかがった話で、忘れられない影水の言葉があるので、それを最後に取り上げておこう。『駒はできたときがいちばんいいというわけだもないんだ。年数がたって磨り減って傷んでも、作り直すともっとよくなるんだ』」
「作り直すともっとよくなる」この上の言葉を聞いたこともあって、これまでにもかつての名工の作をいくつか修復した経験がある。 そのようなこともあり、結局依頼者の熱意にこたえる形で、今回の修復を引き受けたのである。以前から考えていたことでもあるが、私が修復した証しを残すために、1枚の「歩兵」の駒尻に「酔棋修復」(駒銘写真参照)を入れることにした。
もちろん盛り上げだけではなく、「虎斑」の駒木地も見違えるようにいい感じになったのではないだろうか。現代の人やモノの再チャレンジは、駒の世界でも成立するのかもしれない。甦った駒が、依頼者の将棋ライフを豊かにしてくれるように祈念しておこう。