「日本将棋連盟」の奨励会で使われている彫り駒。 |
写真をご覧のとおり、かなり使い込まれた古い駒だ。駒銘には何も書かれていないので、「書体作者不詳」とした。また、駒木地もたぶん黄楊であると思われるが、はっきりとはしないので明示はしないことにする。
この駒の入っていた駒箱の裏(上写真右)には、「寛政甲寅八月」と書かれている。「寛政」といえば江戸期である。「甲寅(きのえとら)」は寛政6年のことで、西暦に直すと1794年だ。つまり、この箱書きに書かれているとおりだとすると、この駒は今から200年以上も前のものということになる。この古びた状態からすればそれは疑いようがないのかもしれない。
ただし、このような書体は、現在でも天童で作られる「上彫り」の駒にかなり似通っている。左写真に掲載した駒は、おそらくそのような「上彫り」の駒で、今もなお「日本将棋連盟」の奨励会で使われている彫り駒だ(拙著『将棋駒の世界』P147)。ちなみにプロの棋士の対局では、盛り上げ駒が使用されているが、俗にプロ棋士の卵たちが指している奨励会では、彫り駒が使われているのである。つまり、四段以上のプロ棋士に晴れてならなければ、盛り上げ駒での対局が許されない。使う駒の違いからも、プロ棋士の厳しさが垣間見えてくる。
今回、このように長い歳月にわたって使い込まれた彫り駒を目にすると、あらためて駒の息吹きというか、生命力さえ感じさせる。この駒で、どのような人々が将棋を指してきたか思いをめぐらすだけで、200年前の昔日が甦ってくるようだ。