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駒形について

■名工の駒形も変化に富む

 別項「酔棋制作駒・駒木地リスト」にも書きましたように、一部手直しのため駒木地を整形したりすることはありますが、私自身(酔棋)は駒木地を基本的には作っていません。おもに、親しくしている木地師の方から、駒木地を購入することが多いです。
 東京最後の名工とうたわれた金井静山(以下太字は、「名工の轍」参照)も、駒木地は作ってはいなかったとされています。近代将棋駒の祖といわれる豊島龍山の駒形も、小ぶりであったり大ぶりであったりと、また厚かったり薄かったりと実にさまざまです。龍山自身、自ら作る駒木地でも、駒形にはいろいろと悩み工夫していた思われます。つまり、完璧な駒形というものは、存在しないといっても過言ではないでしょう。
 ですから、駒木地のよしあしの一端を決めるいわれる駒形(形・角度・厚さ)は、私の場合一定していません(静山にもその特徴が見られる)。これは駒木地を作らない駒師の一つのデメリットですが、反対に数ある書体に対応して駒形を決定するというメリットも生じます。つまり、かつての名工の奥野一香木村文俊といった駒形に特徴のある(鈍角でやや縦長な駒形)駒師の残した書体にも、チャレンジできるわけです。
 現在、駒木地を作っている木地師の方たちは、夭逝した天才・宮松影水の駒形(大ぶりでやや末広がり)をもとにしていることが多いようです。ですから、巷間に流布している書体の「錦旗」「水無瀬」「巻菱湖」などは、そのような「影水形」がぴったりの気がします。しかし、「寉園」「木村名人書」などは、「木村形」(木村文俊の駒形)のほうが似合っているのではないでしょうか。ただし、これらはあくまでも「酔棋流」、つまり私の好みでもあります。また、現在活動中の駒師(駒木地から作る人も、駒木地は作らない人も)の作る作品でも、駒形はそれぞれ微妙に違っていると思われます。
 「この駒形には、この書体が合う」と思いをめぐらすのも、駒師としてはおもしろいものです。もちろんこのような選定における好みは、駒木地そのもの(虎斑、根杢、赤柾など)でも生じます。作り手や駒マニアの好みが、バラエティーに富んでいるところは、駒の世界の豊かさに通じているのではないでしょうか。つまり、「これしかない」と凝り固まるのではなく、「これもいいのでは」と柔軟性をもつことこそが、「駒のミクロコスモス(小宇宙)」を表現するのには、ふさわしいと思えます。
 それでは、下記に掲載したいくつかのサンプル(ここでは、根杢や柾目などの駒木地の種別は関係なし)を見ながら、具体的な駒形(サンプルは「玉将」と「歩兵」のみ)について考えていきます。

■駒形のいろいろ

1.「影水形」に近い大ぶり。 2.標準サイズ。
3.やや末広がりの小ぶり。 4.俗に「木村形」の細身。

※上写真の駒形の大きさは実寸。

黒(大)、緑(中)、青(小)、赤(細)の線で駒形を表した。

 4種の「玉将と歩兵」の駒木地写真(上)は、1.大ぶりな駒形(大)、2.標準の駒形(中)、3.小ぶりな駒形(小)、4.細身の駒形(木村形)です。それぞれを見比べていただければ、微妙な違いをわかっていただけるでしょう。
 左の図版は、それぞれの駒形の「玉将」を色で表し、わかりやすいように左に寄せて重ねてみました(実寸の約2倍)。黒色は大ぶりな駒形(大)、緑色は標準の駒形(中)、青色は小ぶりな駒形(小)、赤色は「木村形」の駒形(細)に分類してあります。重ねてみるとおわかりのように、それぞれは実際にはほんの少しの違いしかありませんが、駒形の大きさや幅だけでなく末広がりの下の部分の角度が鋭角なものから鈍角なものまで、実にさまざまです。ここでは図版には取り上げていませんが、駒形の頭の部分(天)の角度も、木地師によって同じく角度的に微妙な違いがあります。
 上記の駒形写真に、実際の駒字(「源兵衛清安」の「玉将と歩兵」)を入れてみたのが、下の写真です。駒字が入ると、駒形の違いでずいぶんと趣が変わるのがわかっていただけるはずです。
 「源兵衛清安」は、下がやや末広がりの駒字ですので、2.(中)か3.(小)がぴったりな感じがします。1.(大)の場合は、やや駒字が小さく見えてしまうので、やや拡大した字母紙で作ったほうがいいかもしれません。4.(細)の「木村形」では、横幅がやや狭く窮屈な感じが否めません。

1.やや余白が気になる。 2.駒字の収まり具合が適切。
3上右の2.と同じくほぼ適切。 4.左右の幅が狭くやや窮屈。

  実際にあらかじめ決まった駒形で作る場合は、以上のようなことを考慮に入れて、適切な書体を選んだり、字母紙を拡大縮小したり加工することもあります。このようなところに、各駒師のこだわりやセンスが表現されてきます。また、駒字の位置もかなり重要になってきます。
「源兵衛清安」の「と金」。左から右へだんだんと駒字の位置が下がっている。私の好みは、一番左。
  駒字の位置が全体的に上に作られているのは、水無瀬兼成作の古い中将棋(水無瀬駒)などにも見られる現象です。
 その例はともかくとしても、単に駒字は中央に位置すればいいとはかぎらないのです。私の好みとしては、表字は中央に位置させて作りますが、裏字はやや上めにしたほうが、戦う駒のイメージにふさわしい気がします。それもときには、作る書体によって変えたりもします。
 右上写真の「と金」の「と」の位置が左から右にだんだんと下がっているのが、おわかりでしょう。ほんの少しの違いですが、盤に並べたりすると印象はかなり変わってくるものです。一番下がっている右のタイプの「と金」は、静山作に見受けられます。
 もっともこのような位置の違いは、必然的なものではなく作り手の好みやこだわり、またセンスなのかもしれません。

■駒形の厚さと薄さ

 駒は実際に手に持って将棋を指すわけですから、形だけでなく厚さや角度も、指しやすさのポイントの一つです。また手触り、つまり面取りも重要な要素ですが、これについてはいずれあらためて別項にて解説させていただきます。
 左図は、駒木地を立てて側面から表したものです。薄くアミ(グレー部分)のかかっているところは駒形の「天(頭)」の部分となります。わかりやすいようにややデフォルメして、左から(標準)(厚型)(薄型)(急角度型)と分けてあります。
 (厚型)と(薄型)は、文字どおり駒木地が(標準型)に比べて、全体的に厚かったり薄かったりするものです。(急角度型)というのは、駒尻(地の部分)から先端(天)に向けての斜度が急な駒木地です。平箱などに収めて正面から見ると、他のタイプとそんなに変わりませんが、下図で示したように実際に盤に置くと視角でかなり変わってきます。実際に流布している完成した駒や駒木地をよく見ると、それらの微妙な違いもおのずとわかるでしょう。
 下図の左上は(標準)、右上は(薄型)、左下は(厚型)、右下は(急角度型)で、いずれも盤に置いたときの側面から見た状態を表しています。実際に手元にお持ちの駒を、みなさんも盤に置いた側面や上面から眺めてみてください。ちょうどよい自分の好みの厚さや角度を知っておくのは、今後の駒選びに役立つことでしょう。

■作る人・使う人のお好みで

 これまで解説したことを踏まえていただきますと、実際の使い勝手はもちろんいうまでもなく、駒形(形・角度・厚さ)は作る人・使う人の好みがいかに重要であるかわかっていただけたと思います。
 私のように駒木地を作らない場合は、先にもふれたように書体(駒字の大きさや太さも含む)によっていろいろと考えたり、実際に盤に駒木地を置いて将棋を指すときの視線で確かめたりします。駒木地のよしあしは、一概には論じられないと思いますが、自らの好みはみなさんでも決められるはずです。また、その好みはけっして普遍的なものではなく、実物の駒にふれたり使ったりすることで変わってきたりもします。これまでの駒作りにおいて、私自身もずいぶんと変化してきています。とりあえずでいいですから、みなさんもお好みの駒形をイメージすることをおすすめします。

酔棋流/完成までの駒木地研磨

 最後になりましたが、「完成までの駒木地研磨」について少し述べておきます。
 入手した駒木地は、いろいろな工程を経て駒が完成するまでに、何度も何度も研磨することになります。ですから、入手した状態よりも駒が完成したときには、その駒木地は自然とひと回り小さく仕上がることになるわけです。
 これはお酒を造るとき、米を何度も磨いてかなり小さくしていくのと少し似ていると思っています。もちろん駒は、お酒を造るのとは違いますから、それでいいお酒(駒)ができるとはかぎりません。
 ただ、何度もそのように手をかけると、作っているその駒がどことなくいとおしくなってくるのです。そのような駒に対する思いが、完成した駒に少しでも表現されるように努めていきたいと思っています。

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